大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成2年(行ツ)81号 判決 1990年7月19日

東京都世田谷区成城二丁目二三番七号

上告人

亀山孝一

東京都世田谷区若林四丁目二二番一四号

被上告人

世田谷税務署長

辻武保

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被上告人

国脱不服審判所長

杉山伸顕

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行コ)第九四号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成二年二月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論違憲の主張はその実質において法令違背の主張にすぎないところ、原判決に法令違背がないことは、右に述べたとおりである。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)

(平成二年(行ツ)(第八一号 上告人 亀山孝一)

上告人の上告理由

一審判決(裁判官、宍戸達徳等)に於いて裁判官等が理由の資とする所はすべて被告らの主張の鵜呑み、同調に終始して居り、客観的に公正妥当なものとは認められない。従って原告は一審判決の理由にはすべて齟齬ありと主張するものである。然しながら、一審裁判及び一審裁判に至るまでに異議申立、反論書、各準備書面等で既に言及反論した所もあり、茲には齟齬の二、三例を挙げるに止どめ、その煩、と重複を避け、残余は必要があれば後日の言及に俟つ事とする。

一 絶対的上告理由として判決の理由に齟齬があるとき、としているが、ここに事実認識が判決の重要な構成理由である事は申すまでもない。従って事実認識の齟齬は判決の理由の齟齬であると言わねばならない。

一審判決の記載に………………

事実

第二 当事者の主張

一 請求原因

2 (本件処分の違法事由)

(二) 被告税務署長は、更正前に原告が更正の処分理由の開示を求めたにもかかわらず、理由を開示しなかったが、これは違法である。

……………………

としているが、之は重大な点で事実と相違している。即ち、原告は更正通知書を受け取った後に、更正通知書に理由附記がない事から世田谷税務署に行き、担当調査官熱海範人に理由の開示を求めたものであり、更正前に処分理由の開示を求めたとするのは事実に反する。そもそも、更正通知書を受け取る迄は更正処分を受けるとは思っていないのであるから、予想していない更正処分について予め、更正処分の理由の開示を求めることなど有りえないではないか―事実、更正の処分理由の開示を求めたのは更正後である。茲に一審裁判官(宍戸達徳等)が極めて重大な論点に於いて極めて重大な事実のすりかえ、即ち、『詐述』を行っているのは重大問題である。

原告が主張する理由なき更正処分は違法であるとするのは更正処分後に於いてその理由を明らかにしない事を問題にしているのであって更正処分前の未決の状態に於いてではないのである。

而して、裁判官等のこの『詐述』に対応して被告らは

三請求原因に対する認否・反論…………に於いて

3 同2(二)の事実は否認し、違法であるとの主張は争う。現行法上、更正前に当該更正についてその理由を説明する法律上の規定はない。…………

と対応している。

即ち、何れも『更正後』を『更正前』として事実をすりかえる事によって論点をすりかえ、ゴマカシテいる。一審裁判官(宍戸達徳等)と被告等が共謀結託して事実の隠滅を図ったものとしか思えないのである。

要するに、本件更正処分には手続的違法があり、取消を免れないものである。而して一審判決は最も重大な論点に於ける事実認識に於いて重大な齟齬があり、取消さるべきものである。

二 一審判決の『理由』の中、三の1の(一)の(4)の<4>で…………昭和五六年分カルテから計算されたポーセレンの数が七六本であったのに対し、昭和五六年中に、しん山セラミックが原告に納入したポーセレンは、約百三〇本と推認された…………として森久保貴志等がデッチ上げた合理性のない乙第一二号証に基いてポーセレンの数を計算しているが乙第一二号証は申述者・鳥塚鉄夫自身によって否認訂正されており(甲第四六号証)、これによっても原告の申告の正しさは証明されている。

一審裁判官等(宍戸達徳等)は存在価値のない乙第一二号証による推計値を以って判決の有力な理由としているが、申述者自身が否認訂正した甲第四六号証が正しいことは明白であるにも拘らず一審裁判官等は甲第四六号証を採択しないばかりか言及すらしていない有様である。判決理由に齟齬ありと言わざるを得ない。

即ち、ポーセレンの数を七六本から百三〇本に増やすことによって、収入を七六分の百三〇倍に増加せしめる理由となし架空収入の捏造によって不当課税処分の根拠としたものであり、合理性のない課税処分と言わざるを得ず、此を鵜呑みにした判決も亦理由がないと言わざるを得ない。

三 一審判決理由の中、三の2処分理由の事前開示について

原告は、原告が被告税務署長に対し、更正前に更正の理由の開示を求めたが、被告税務署長が当該理由を開示しなかった事が違法である旨を主張する。…………

と述べているが原告はかかる主張をした事実はない。

更正後に税務署に行って更正処分の理由を問い質したのであって更正前に更正の理由の開示を求めた事実はない。

原告は更正前には更正処分を受けるとは思っていなかったのであるから更正の理由の開示など求める筈がないではないか!更正通知書を受け取ってからビックリして担当調査官熱海範人に面会を求め、理由の説明を求めたのである。

繰り返して述べるが、事実は更正処分後に理由の説明を迫ったのに対し、『説明出来ない』として担当調査官・熱海範人は拒否したのである。(甲第一五号証・反論書)

憲法第一四条はすべて国民は法の下に平等であり、差別されない、と規定し、差別的に不利益処分を受けることは排除している。

更正通知書に対する理由附記の理由は一つには手続的保障の見地から処分庁の判断の慎重・合理性を担保して、その恣意を抑制すると共に、処分の理由を示して、不服申立に便宜を与える事にある。従って理由附記がないと言う事は、とりもなおさず、手続的保障もなく、而も、処分庁は判断に慎重・合理性を欠き、恣意のままに更正処分を行うことが出来ると言うことになる。即ち、理由附記の不存在による不利益は明らかであり、通常申告者(被告等は好んで白色申告者という差別的用語を愛用しているが)に対し理由附記が必要でないとする被告等の見解は法の下の平等を説く憲法第一四条に違反している。

少なくとも更正決定後に処分の理由を聞かれたならば明確に更正処分の理由を開示し、通常申告者(白色申告者)と青色申告者との間に法的差別が生じないように配慮すべきであろう。

而して、原告の場合、正に更正処分の理由附記不存在の不利益を蒙った最適例と申すべきものである。

即ち、手続的保障もなく、更正処分に当っては慎重・合理性を欠き、恣意にまかせて課税処分を行うと言った有様で次から次に理由を差し替えウヤムヤの内に更正処分の理由も明らかにすることなく、一審裁判は終了、然も被告等の勝訴に終わると言った有様である。

『裁判所は不当課税処分を正当化するためのセレモニー機関である。』というのが原告の実感であり、不当課税処分の横行は裁判所が公正さを失って来ており、課税処分の理由に就いて更正通知書に明確に記載することに対して厳正さを欠いていたからであると感ぜざるを得ないのである。正に諸悪の根源を見る思いである。

然るに、担当調査官たる熱海範人は『説明出来ない』の一点張りで全く何の説明も行わなかった。(甲第一五号証・反論書)

更正処分の理由を明らかにすると言う極めて重大な論点に於いて判決の理由に記述する所が事実と相違する事は重大なる理由の齟齬と言うべく、故意に裁判官と被告とが共謀結託して事実を歪曲したとしか思えないのである。原告は一度もそんな主張をした覚えはないからである。

更正処分後に更正の理由を求めたのに対し、理由を開陳しないのは極めて重大な手続的違法であり、取消を免れないものである。この事は憲法の否定、法治国家の否定、更には法律の否定をも意味するものであるからである。

以上いずれの論点よりするも、原判決は違法であり、破棄さるべきものである。

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